Partner Success Blog: 株式会社Bot Express
株式会社Bot Expressは、官公庁が運用するLINE公式アカウント上で役所の申請や手続きの提供を実現するプラットフォームサービス「GovTech Express」を開発・提供しています。そして2022年6月、直近3年以内にSalesforceパートナーとなり、年間の導入件数・金額においてもっとも活躍したパートナーに贈られる「Partner Award 2022 Emerging Partner of the Year」を受賞しました。同社代表取締役の中嶋一樹氏に、製品開発・組織づくりにおいて大切にしていることや、AppExchangeパートナーとして実感しているメリット、今後の展望などについてお話をうかがいました。
============================
【プロフィール紹介】
代表取締役 中嶋一樹氏
株式会社セールスフォース・ドットコム(現・株式会社セールスフォース・ジャパン)などでエバンジェリストとしてキャリアを重ねた後、LINE株式会社在籍時に福岡市とともにLINEを活用した粗大ごみ申請の仕組みを実現。2019年2月に株式会社Bot Expressを創業し、「お客様は住民、自治体はパートナー」という理念のもと、「GovTech Express」の開発・提供を開始。
============================
アプリ開発におけるSalesforceは「利用しないのはあまりにもったいないプラットフォーム」
――はじめに、御社のビジネスの概要と製品の特長についてご紹介ください。
当社は2019年に創業し、官公庁専用の対話型アプリGovTech Expressを開発・提供しています。このアプリは、ひと言でいうと住民の方がLINE公式アカウント上で役所の申請や手続きなどを行える、スマホの中に市役所を開設するようなサービスです。オンラインの行政サービスはこれまでにもいろいろ提供されてきましたが、住民の方にあまり利用されていないのが実情でした。それを踏まえてGovTech Expressは、LINEというすでに多くの方に利用されているプラットフォームを使うことで、ほとんどの方に今すぐご利用いただける行政サービスにする、というコンセプトとなっています。
――GovTech Expressが生み出されたきっかけは?
私は前職のLINE在籍時、日本初のLINEを使った行政サービスとなる粗大ごみ申請の仕組みの構築に福岡市とともに取り組みました。そのサービスが住民の方から圧倒的に支持されて、やはり今こういうサービスが求められているんだな、と実感したのです。それなら、粗大ごみ申請以外のさまざまなサービスにも実装し、新しいスタンダードにしていきたいと考えて、会社を立ち上げ、GovTech Expressを開発しました。
――Salesforceプラットフォームで開発・提供するメリットとして感じていることは?
メリットというより、Salesforceという非常に優れたプラットフォームがすでに存在するのに、それを利用しないのはあまりにもったいない、自分たちで一から作っていたらSalesforceを使っている人には勝てない、という思いがあります。
また、AWSやAzureで実績を積むのがエンジニアの主要なキャリアパスとなっている中、Salesforceはやや独自色のあるプラットフォームで、PaaSの中ではそこまで知られていません。そのため、プラットフォームとしてSalesforceを使うという発想を持つスタートアップはさほど多くない中、当社はSaleforceを活用することで3段飛ばしで階段を駆け上がっているような感覚を持っています。
――製品開発において、どのようなことを大切にしていますか?
重視しているのは、個別に開発すべきところと、そうしてはいけないところとを見極める、ということです。従来の自治体向けのシステムは、要件通りに個別開発するのが基本でしたが、お金がかかりすぎてしまうという問題がありました。一方、SaaSは基本的に、どのお客様に対しても同じものを提供しますが、それだとお客様ごとのカスタマイズのニーズに応えられません。
その問題については、Salesforceプラットフォームをうまく使うことで解消できます。全国共通にしなければいけない部分と、お客様側でSalesforceの環境を使ってカスタマイズできる部分とを組み合わせることによって、両方の旨味を引き出すことができるのです。これは、カスタマイズのご要望が強い官公庁のビジネスでは特に有効なところですが、民間企業相手のビジネスにも共通していえることだと思います。
「成功事例が増えればビジネスは自然に拡大する」との判断からカスタマーサクセスに注力
――GovTech Expressはリリースから約3年で早くも全国90弱の自治体で導入・利用されているそうですが、どのような組織体制でビジネスを進めていますか?
創業から1年半ほどは私1人でしたが、現在は私を含めエンジニアリングチーム2名、PR・マーケティング・ブランディングチーム2名、最多はパートナーシップチームの4名です。お気づきの通り、当社には「営業」を冠するチームはありません。というのも当社のビジネスにおいては、契約上の顧客という意味では自治体がお客様ですが、収益はすべて税金から来ていて、それを支払っているのは、また実際にアプリを使うのは住民の方々です。その意味では住民の方々こそが最終的なお客様であり、自治体については一緒にサービスを提供するパートナーと位置づけています。「営業チーム」ではなく「パートナーシップチーム」と定義しているのはそのためです。
――起業当初は営業に投資するSaaSスタートアップが多い中、非常に特徴的な体制ですが、どのような経営判断からそういう組織づくりを進めたのですか?
当社のセールスサイクルを踏まえたとき、パートナーシップやカスタマーサクセスに投資するのがもっとも効率的だろうと考えたからです。仮に、ほとんど実績のない起業当初、関係性のない自治体に営業をかけても、おそらく話すら聞いていただけず、時間とコストを浪費するだけだったでしょう。
逆に、当社のソリューションの評判を聞いた自治体からのお問い合わせは、かなりの高確度でコンバージョンします。民間企業でもそうだと思いますが、官公庁においてはそれ以上に、他の組織での事例を参考にソリューション導入の可否を判断する傾向が強いからです。つまり、最初にある程度の数の成功事例を作ることができれば、そこから自然にビジネスが拡大していく可能性が高いわけです。
よって当社としては、いいプロダクトを作ることと、共鳴していただいたパートナーにフォーカスして成功事例に育てること、この2点だけに力を注ぐべきだと考えました。特に起業してしばらくは、お金と時間とリソース、なにもない状態ですから、そのように「やることを決める」、というより「ほとんどのことをやらないと決める」という決断が必要だと思います。
――ただ、そうなるとパートナーシップチームの方には、自社の製品に関する深い知識が求められますよね。その点に関して、どのようなことに力を入れたり、注意したりしていますか?
気をつけているのは、エンジニアリングと全メンバーの距離をなるべく近く保つ、ということですね。当社では、今でもすべての開発を自社内で行っており、また普段から社内で皆に自社のプラットフォームを徹底的に使ってもらってコミュニケーションを取っているため、エンジニア以外のメンバーも自社の製品について熟知しています。
多くのスタートアップでは、営業担当者がお客様先で質問を受けると、一旦自社に持ち帰って後日回答する、という形になりがちですよね。一方当社の場合、パートナーシップのメンバーが「それはできます、なぜならば……」とその場で質問に答えられるので、それがお客様にとっての納得感や、当社に対する信頼感につながっている面は確実にあると考えています。
今後もSalesforceを駆使し、少数精鋭で知恵を出し合う“ITビジネスの美”を追究
――とはいえ、少数精鋭で現在に至るまでには、いろいろなご苦労があったと思います。それをどのように乗り切りましたか?
確かに、朝から晩までほぼ仕事しかせず、本当に毎日が嵐のように過ぎていった感じですね。特にコロナウイルスが流行して以降は、ワクチン予約の関係でアクセス数がとんでもないことになって、それでもシステムを止めてしまうと大変なことになるので、運用に非常に気を遣いました。そこはセールスフォース・ジャパンの方々のご協力が非常に心強く、ありがたかったですね。
セールスフォース・ジャパンとの協業についてつけ加えると、私は元社員でパートナープログラムについてよく知っているというのもあって、とてもスムーズに進められていると感じています。今後は、国などの大きなプロジェクトに一緒に取り組むことができれば、両社にとって大きなシナジー効果が生まれるだろうと期待しています。
――そのあたりも含めて、今後の展望についてお聞かせください。
現時点で、新機能を作るとか、新たな領域に踏み出すとかいうことはあまり考えていません。なぜなら、設立当初のビジョンの中で、やらなければならないことがまだまだ残っていると思うからです。行政サービスの中には、住民の方々が「なぜこんな仕組みになっているの?」と感じているものがまだたくさんあります。そうした疑問や不満を解消できるサービスを提供し、誰が見てもビフォーアフターがわかるような住民の行動変容を促す事例をもっと増やしていきたい、今後数年はそこに力を入れなければならないと思っています。
もともと私には、会社を大きくしたいという発想はなくて、それは今でもありません。ITのビジネスというのは、パフォーマンスが従業員数に必ずしも比例しないと思うからです。むしろ、従業員が増えるほど1人当たりのインパクトは小さくなり、常にリソース不足を感じるようになるケースが多い印象です。
たとえば、グローバル規模のサービスをとてつもない少人数で運営する米国のIT企業がありました。人数が少なくても優秀な人間が知恵を出し合ってビジネスを進める、これこそがITの美しさだと感じさせる会社でした。私たちもそこを目指し、できる限り人数を増やさず、成功事例を増やしていきたいと考えています。
――最後に、他のルーキーパートナーの皆様、エンジニアの皆様に対してメッセージをいただけますか?
実は私は、2015年にセールスフォース・ドットコムを退社した後、しばらくはSalesforceを使いませんでした。それでも、自分で会社を立ち上げようと決めたとき、真っ先に思ったのは、「やはりSalesforceを使うのがベストだ」ということでした。
アプリを開発する上でSalesforceは、普通に作るより何倍も早く、したいことを実現できるプラットフォームです。エンジニアの視点でいうと、最初のラーニングカーブがきつい、という課題はあるものの、そこで自分のキャリアを積む価値は間違いなくあります。Salesforceという引き出しを持っておくことで、ビジネス課題を解決する際に「これは開発しなくていいものだ」と気づける。そこがエンジニアにとって大きな分かれ道になる、と実感しています。
============================
-
【高評価カスタマーレビュー特集】RaySheetでExcel感覚の 操作性と外観を実現 【高評価カスタマーレビュー特集】RaySheetでExcel感覚の 操作性と外観を実現 Natsumi Tanaka レベル 種別 Article この記事は高いレビューを獲得しているアプリのカスタマーレビューを元にAppExchange編集部が評価されているポイントをご紹介する記事です。
-
Partner Summit 開催レポート Partner Summit 開催レポート 種別 Article
-
Salesforce上の重要な CRM データを自動でバックアップ(Cloud Backup) Salesforce上の重要な CRM データを自動でバックアップ(Cloud Backup) Natsumi Tanaka レベル 種別 Article AppExchangeのオススメアプリの機能をデモでご紹介!##Salesforce クラウド上の重要な CRM データを自動でバックアップ。1日最大4回のバックアップをワンクリックでセットアップ可能です。スムーズなデータ復旧により、ユーザー エラーやサービス停止時のデータ損失やダウンタイムを最小限に抑えます。
-
Partner Success Blog: 株式会社研文堂 Partner Success Blog: 株式会社研文堂 種別 Article 株式会社研文堂は、鹿児島県鹿児島市において1978年、“街の文房具店”として創業した企業です。その後、複合機市場へと参入した同社は、機器の管理システムとしてSalesforceを自社導入したのを契機に、セールスフォースのコンサルティングパートナーとなることを決断しました。異業種からSalesforceビジネスへの大転換を成功させた秘訣や、地域パートナーとして実感しているメリットなどについて、代表取締役社長の濱田修一氏はどう語るのでしょうか?
-
Partner Success Blog: 株式会社システムフォレスト Partner Success Blog: 株式会社システムフォレスト 種別 Article 株式会社システムフォレストは、熊本県に本社を置き、クラウドソリューション事業とIoT/AIソリューション事業を展開するベンダーです。2012年にセールスフォースのコンサルティングパートナーとなった同社は、以降の10年間で顧客数を数社から約700社まで増やすなど、飛躍的な成長を遂げました。顧客に寄り添い、カスタマーサクセスに貢献し続けてきた同社の代表取締役・富山孝治氏とCSO・今村和広氏に、地域パートナーとして活動することのメリットや魅力などについてお話をうかがいました。